高校のとき同じクラスになったよっちゃんは、天然パーマがボリューミーな女の子で、私のカルチャーの先生だった。今でいうサブカルの走りだったよっちゃんが勧めてくれた音楽や映画は、今でも大好きなものが多い。
中でも一番影響を受けたのが映画版Hedwig and the Angry Inch。旧東ドイツ生まれの少年が自由と愛を手に入れるために性転換手術を受けるが失敗し、男でも女でも無いヘドウィグというロックシンガーとして自分が真に愛する「かたわれ」を探す人生を描いたロックミュージカル。オフ・ブロードウェイからはじまり今年で20年、まさに世界中で上演されるような演目になり、私も日本で山本耕史版、森山未來版に通い詰めた。三上博史版はあとから存在を知ったので音源しか持っていないけど見たかったなぁ。
オリジナルの作・主演はJohn Cameron Michael。彼のパフォーマンスを見たのは9年前の山本耕史版のときの『ヘドウィグ~』ツアーファイナル大打ち上げLIVE~ジョンも来るよ!〜(なんつうタイトルだ)で数曲披露してくれたのが最後で、その時すでに43歳だったしなんとなく日本で見るのはもう最後なのかなぁって思ってた。
ところがそのジョンが日本でヘドウィグのショーをやるってニュースを目にしたのが公演初日。絶版になってた映画版DVDのリリース広告だった。なぜ気付かなかった私!?!?慌ててチケット情報を見るも当然時すでに遅し。4日後が大阪公演だけど1公演しか無い上に千秋楽!こんなの絶対無理じゃん…と泣きながらありとあらゆるチケットサイトに目を通しTwitterなどでも嘆願していたところ、よくわからないチケットBBSに英語の書き込みを発見。譲ってくださいに対する返信の書き込みだったけど、もうこれを奪うしか無いくらいの勢いでメール発送。もしこの人から返事がなかったらどうか私に…と嘆願したところなんとOKが!!この公演のために中国から来日するという気合の入ったファンだということがわかり、私も期待度がアップ。ただTwitterで公演の感想を検索するとなかなか賛否両論で、あんま期待しすぎんとこ…と思いながらも眠れない夜を過ごした。
そして当日中国のファンの子と合流。私に譲ってくれたチケットの本来の持ち主は、なんとビザが下りずに来日できなかったとのこと。なんてことだ…。中国でもヘドウィグの公演が企画されたこともあったけど潰されて、DVDも発禁らしい。「中国ではヘドウィグはillegalなの」と言って笑っていた。日本でDVD買って帰るそうな。
せめてもの感謝の気持ちを示すべく大阪観光ガイドを名乗り出てしばし観光。
途中ユーリ!!on Iceのガチャガチャを発見してめちゃくちゃテンションが上がる二人。ジョンはユーリ!!on Iceのヴィクトルのモデルになっていることでも知られているので(むしろ日本ではその方が有名かも)、そこで鼻高々と「私はユーリの1話を見た瞬間にこれはジョンだってわかったよ!フィギュアスケートが好きなだけで見始めたから久保先生がヘドウィグ好きってとこまでは知らなかったけど一目見てわかったもんね」となぜかドヤ顔かましてしまった。ユーリのフチコさんみたいなやつでヴィクトルが2種類あったので二人共出るまで回して「ちっちゃいジョン……!」と喜んでいた。そうか自分の推しの俳優がアニメキャラのモデルになるとこんなグッズが手に入るのか!と目から鱗。
日本でのこれまでのヘドウィグの公演などについて質問され、いろいろと答えてるうちに彼女らの一人がとんでもないガチオタだということが分かってきた。まずNYに住んでてジョン本人に認知されて名前覚えられてるし、ヘドウィグに関する情報は全て網羅していてPCには公演日付ごとの写真フォルダがあるらしい。中国のファンはみんな彼女のweiboから最新情報を得ると友達も証言。本物だ。絶句してしまうようなお宝写真を見せてもらったり、ジョンのこのインタビュー映像がすごくいいよとかいろいろ教えてもらった。(見たけど英語字幕なしなので何も理解できず。がんばろう…)
公演限定のTシャツを買うために開演2時間前から並ぶという二人と一度別れ、私はヘドウィグオマージュのヘアメイクをした。Wig in a Boxというナンバーに擬えて、ヘドウィグの公演を観る時はいつも派手なアイシャドウをする。
I put on some make-up
and turn on the eight-track
I’m pulling the wig down from my shelf
美しく着飾って自分を取り戻すこと、全てを脱ぎ捨てた自分になってみること、どちらも手放さずにいることをヘドウィグを見ると思い出すので、誰にも会わなくてもいつも派手な化粧をしてハイヒールを履いて劇場に行く。昨日は特に派手にしたくて手芸用のラメを顔にまぶして行ったのでかなり道行く人々の視線を感じた。でもいいのだ。
(以降、今回の公演の内容について詳しく触れています)
会場はNHK大阪ホール。今までヘドウィグの公演を見てきた中で段違いに大きい箱で、これうまく盛り上がるかな…?とすこし心配になった。ヘドウィグは場末のライブハウスで少ない客を相手に巡業している設定で、その彼女のツアーの一環として物語が始まるのでどう考えたってホールツアーじゃ広すぎる。それに今回の公演は「SPECIAL SHOW」と題されていて、落胆のTweetも散見されたのでもしかしたら内容が全然違うのかもしれない。それでもジョンが見れればそれで……と思っていたそのとき幕が開いた。
全くの杞憂だった。Tear Me Downのイントロの中、中村中(あたる)さんのイツァークの紹介で歌いだすヘドウィグ。繰り返し、繰り返し聞いたCDと全く変わらない歌声がそこにあった。私本当にジョンの歌を聴いてる!もう54歳だしなぁとか思ってごめん。この広い会場をものともしない巨大なエネルギーで会場が一気に湧いて皆立ち上がる。すごい存在感だった。Wig in a Boxのときのショートヘアのウィッグの可憐なこと。みんなで歌うパートでテンポ完全に外して誰も一緒に歌えなかったのもご愛嬌。ところどころに「モウエエワ」「ウルサイ」「乳首ドリル」など関西弁とギャグを交えてきてジョンらしいな〜と思った!(当日ジョンはInstagramに街中のすち子のポスターとの2ショットをアップしていていたので、それの説明も含めてあとから乳首ドリルのギャグを説明するの難しかった、「大阪にはとても大きなコメディアン集団がいて劇場も持ってて毎週ショーのテレビ放送があるんだけど……」)
中村中さんも、山本耕史版でも観ていたけど格段に表現力の幅が上がっていたと感じた!今回はヘドウィグ/ジョン イツァーク/中 と割り切った配役ではなく、二人で一役であり全役の演出だったので、中さんがヘドウィグでいる時間がかなり長かったけど、これは将来中さんがヘドウィグを背負って主演するルートもあるんじゃないか?と思わせるくらい良かった。(ただ公表されていたキャスティングは上記の通りだったので、不満を抱く人がいるのも大いに分かる。中さんがヘドウィグを演じるというのは公式からは事前に解釈のしようがなかった)
懸念だったNHKホールは音響も照明も最高で、最後ヘドウィグが光の中へ向かって歩き出すシーンの照明設計なんて素晴らしくてまた泣いてしまった。ほんと照明効果的だったな。
「ヘドウィグは全編ジョンに演じてほしかった、セリフ全部英語でもいいのに〜」「あのアニメなに?マジ”日本”じゃない?」「なんでExquisite Corpseをイツァークが歌う!?そんな演出今まであった!?」「なんで最後トミーのWicked Little Town(reprise)でTシャツ着てるの!?全部脱ぎ捨てた姿と被せてたはずだったのに…あのワッペンを捨てるスケールのショボさよ」(これは日本ではステージで裸はダメとかそういうこと?と聞かれたけど前に三浦春馬の全裸も見てるしきっとそうじゃないよね?単にジョンのボディラインの都合だったのではないかと思う)などなど、見終わったあと口々に言い合った感想はみんな同じで笑ったけど、それも全てジョンの歌声の前では風の前の塵に同じ。本人が再演するというカタルシスだけではなく確かな力量とパワーでやりきってくれたことに感謝して運営の綻びにも両目をつぶって終わりたいと思います。
そして明日はジョンの最新作「How to talk to girl at parties」のジャパンプレミア。行ける人いいなぁ…
ヒット祈願!
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